山のたより (2) 植林


植林とは木を植えることです。
今回は小さな山崩れを起こした場所に砂防壁を作った、その壁の下の部分が裸地となったままだったので植林をすることにしました。7林班。

昔の植林と今の植林で一番違うところは囲いをするかどうかです。昔は木を植えてさえおけば育ったが、今はそうはいきません。とこかで鹿が見ています。明日来てみたら植えた檜の苗をすべてたべてしまっています。なので、先に囲いをしてから植えます。
植えて、明日、囲いをしよう、ではいけません。夜のうちに鹿が食べてしまいます。先に囲いをします。



たったこれだけの面積ですが、植林しておきます。 持ってきた網を張りますが、
まずは支柱を建てます。
鉄棒で穴をほがして、そして支柱を建てて、
それに網を括りつけていきます。
支柱に結束バンドで縛っていきます。
しかしながら、持ってきた網では足りませんでした。
何事も計画通りにはいかないものです。
流れ落ちてくる砂を考慮して、ススキの根の下に、垂直より上向きに、少しだけ傾けて植えます。 さらに網を張って、完全に囲ってしまいます。
そのあと植林開始です。

狸がやってきましたよ。
とことこと、こちらへ歩いてきます。
何か考え込んでいましたが、
何か思いついたらしく、
急いで帰っていきました。 メジロの巣の跡です。


そういうわけで小さな植林が終わったわけですが、今度は、ドーンと広い植林地です。
公団造林地、約50ha。
50haというのは、水平距離にして、だいたい700m四方。だから鹿よけの網の長さは3km、斜距離にして4km、山のデコボコを考慮して5kmもあればいいでしょう。みてみましょう。9林班。


沢が境なので沢をのぼっていきます。
そして造林地に出ました。
中を通る林道の両脇に網が張ってあります。
その周りに網が張ってある。 網の目は大きいです。鹿が入らなければよいわけですから。
はるか向こうまで網。 林道沿いに網
ここは、林道の外側に張ってあります。


50haの植林地をひとまわり見てきましたが。鹿防護のための網の長さは、ざっと10kmは下らないでしょう。
植林して、下刈りして間伐して、もりを育てるために、地拵えからはじめるのですが、その前に鹿の防護網を張らなければならないのです。
10kmの長さの網を張って、そのあとで植林をしなければならないのです。


さて、鹿防護柵は1980年ころから設置されるようになりました。畑のまわりを3反、4反と柵をはりめくらすのと違って植林地に柵を張り巡らすのは規模が大きすぎます。最低限20ha単位の面積になります。なので鹿が増え始めたころには、まだ、あまり鹿柵は設置されませんでした。
それが、この檜林です。柵をしないまま植林をして、鹿に食われながら下刈りをして、2回ほどの間伐をして、そして、この状態です。1林班。


過去に2回くらい間伐をした形跡があります。
見てみると、ほとんど食われています。
この林の中、すべての木が傷持ちの木です。
まっすぐでない、傷のある木を切り捨てようと選定するのですが、
ほとんど切ることになります。このように鹿に食べられたまま傷を持ったまま成長したものです。


イノシシやサルなどは農業被害は出しても、山の森林に影響を及ぼすということはありません。カモシカも林業被害は出しますが、自然の森林に影響を及ぼすことはありません。シカだけが自然の森林にまで影響を及ぼすのです。影響の強いところでは、シカが食べない植物しか生えていません。例えば茶の木やアセビだけが残っています。そのほかの緑はほとんどないという状況になっています。
植林地の外で気が付くのが、林の端にマント群として這い上がっているクズの葉が見当たらないこと、そして林内にはいって、気付くのが「アオキ」がまったくなくなっていることです。

シカが食べない木は、他に シャクナゲ、ナンキンハゼ、 キョウチクトウ、イヌガシ、シキミ(シキビ)、カゴノキ、ナギ、ヤブニッケイ、レンゲツツジなど、草ではウラジロ、イワヒメワラビ、イアザミ、イラクサなどで、これらは草木が有毒物質を持っていたり、また、動物が好まない忌避物質(きひぶっしつ)があります。8林班。


天然林の中を歩いています。
もちろん道はありませんが、低木が生えていないので歩きやすい。
今、どんなところを歩いているかというと、この天然林の中を歩いています。
ここは自然林の中ですが、低木がまったく生えていません。
人工林の中は楽に歩けるものですが、今では自然林の中も楽に歩けます。
何げなくかき分けて登っていきますが、
右手で握っている木はシキビではないか。鹿が食べずに残したシキミでしょう。
急な斜面を斜めに境界線が引かれているので、そのとおりに歩く。 ここは斜面の中腹をまっすぐに境界が走っているはずなので、
来た方角へ杖を向けて置き、反対側へまわり、歩くべき方向を見定めている。
沢沿いの開けた場所には、前はクマザサなどが生えていたが、鹿に食べられてしまって、今では裸地になっている。 場所は変わって、6林班
鹿の食べた後です。
お茶の密林です。これも鹿が食べなかった茶です。人はお茶が好きなのに鹿は食べません。どういうことでしょうか。6林班 ここも鹿害の跡。6林班
ここは川崎市、東高根森林公園です。このようにアオキが生えているのが普通なのです。 アオキや笹類が下木としてはえています。
アオキや笹類が下木としてはえています。 林の際には、このようにマント群としてクズが乗っかかってきています。これが通常の林なのですが、上の写真のように何もない。


すべて鹿のせいです。鹿が増えすぎたのです。まるっきり下草が食べられてしまい。下木も芽を出したとたんに食べられてしまいますので、林の中は裸地になっています。雨が降ったら土は流れ、大木の根を洗い、いずれ、この大きな木々も倒れて、山崩れ、土石流が発生するでしょう。それも日本全国で起きてきます。もはや自然は管理された都会の森の中にしか残っていない状態です。

鹿のせいです。少し前までは孟宗竹が林を侵略して、日本の林のすべてが孟宗竹になると怖れましたが、その孟宗竹のタケノコが芽を出したとたんに食べてしまうので、竹林も枯れて裸山になって、山崩れ、土石流の発生につながります。

たぶん、鹿を保護しすぎたため、天敵がいなくなったため、温暖化により、ほとんどの鹿が無事に冬を越せるようになったためだと、私は思います。